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wrigings 執筆

academic journal article 論文

日本の小学校・中学校における「人種」・「黒人」観の形成と定着
―学習指導の内容と知識の習得を中心に―
『武蔵大学人文学会雑誌』第42巻3,4号

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序にかえて
グローバル化の進む世の中にあって、スポーツもまた世界各国の代表が交流し、活動する舞台として、日々その存在感を高めている。オリンピック、サッカーW杯、そして世界選手権大会など種々の国際レベルでの競技会では、肌の色や身体的な特徴の異なる、つまりいわゆる「人種」的な差異によって隔てられた人々が熱いドラマを繰り広げている。その様子を目にし、その結果に一喜一憂しながら、私たちは、運動競技における成績の差異が、なにか、人間の本性の奥底に潜む性質によってもたらされるのではないかとの憶測を巡らしてはいないだろうか。もしそうだとするなら、それは、肌の色や身体的な特徴の多くが生まれた時点で存在する差異であるため、ミクロあるいはナノレベルで、誕生前にヒトの形質を決定づける領域への連想を、常に、容易かつ安直に促すからであろう。最先端の現代科学のメスが切り込んでいるにもかかわらず、その全体像がほとんど未解明の領域、すなわち遺伝という。
2010年もまた、サッカーW杯南アフリカ大会の年とあって、予想通り、本プロジェクトが焦点とする「黒人身体能力」への想像力が、バーチャルやリアルな言説空間でフル稼働した一年であった。ある主要日刊紙上にも、こうした言説空間を構築する報道の一例を見ることができる[i]。W杯終了後間もない時期に発行された紙面では、「金メダル遺伝子あるの?」という見出しのすぐ隣に、短距離100M走の覇者ウセイン・ボルトの走る黒い身体が配置された[ii]。その右下にはマラソン界の王者、エチオピア出身のハイレ・ゲブレシラシエが、長い両手を大きく広げてゴールインする様子が添えられている。記事は「無条件で金メダルを獲得できる遺伝子はなさそうだ」と懐疑的な調子で結ばれるが、こうした慎重さとは裏腹に、ここでも、遺伝子と黒い身体と走力との関連が暗示されている[iii]
さて、ここでいう「本プロジェクト」とは、「黒人」と呼ばれる一群の人間集団と先天的な運動能力を短絡させる世の中の風潮に一石を投じるべく、2008年に立ち上げた2つのプロジェクト、科学研究費補助金による基盤研究C「アメリカ合衆国における黒人身体能力神話およびスポーツへの固執と対抗言説・戦略」および武蔵大学総合研究所助成プロジェクトA(研究テーマ:アメリカ合衆国における運動能力・身体能力の人種間格差に関する言説・表象とその社会的影響)を指す[iv]
本プロジェクトの目的を、原点に戻って確認しておこう。それは、「黒人」と呼ばれる人間集団に固有の運動能力があるとする想定を、その科学的根拠が存在しないにもかかわらず1つの言説として広く受け入れられていることを根拠に「神話」として規定し、この神話が出現し、伝播してきた経路を、以下に説明する2つの立場からの分析を通して解明することである。換言するなら、ここで目指されているものとは、「黒人身体能力神話の浸透」=「歴史的、文化的に構築された現象」に生得的、遺伝的根拠があるとする想定を批判的観点から再検討する作業にほかならない。
上で述べた2つの立場の第一は、「神話」の浸透を国際的な広がりをもつ現象として捉え、その起源と形成・普及の過程をグローバルな視点から、とりわけスポーツ大国として、これまで多くの黒人アスリートを産出してきたアメリカ合衆国(以下アメリカ)の占める役割と位置に注意を払いつつ、明らかにしようとするものである[v]。そして第二は、「神話」の浸透におけるすぐれて日本的な、つまりにグローバルな水準に照らすと日本においてきわめて無批判に「神話」が受容される状況に注目する立場である[vi]
以上の2つの立場に立つ調査の成果を、筆者はこれまで幾度かに分けて発表してきた。本論は第二の立場からの研究の一環をなすものであり、それゆえ、この立場に立つ先行研究の成果をまとめておく。
まず、問題の所在を明示するために、「黒人」、「身体能力」、「神話」などの主要概念に定義を与えると同時に、文献調査や意識調査の結果を紹介し、日米間の神話に対する意識や態度の差異の度合を明らかにした。その差異を要約するなら、「アメリカにおいては、黒人が固有の運動能力、あるいはそれより広い意味での身体的な力を有するかどうかをめぐって世論が、3対7から5対5の割合で分裂し、他方日本においてはそれが争点たりえず、むしろ所与の想定として、半世紀近くに渡って安定的に維持されてきた」ということになろう[vii]
次に、研究調査の方法論を詳述し、日米のインフォーマントに対するアンケートと聞き取りの結果に基づいて、日本で神話が無批判に受容される過程を解明するために検討すべき経験領域として、1. 実際の「黒人」との遭遇、2.「人種」や「黒人」という言葉・概念との遭遇とその習得、3. これらの言葉・概念の義務教育カリキュラムによる学習、4. 「神話」を支持するに至った契機と体験の四者を設定した[viii]。さらに、第一の経験領域に関して、その経験が、身体能力神話とは縁の浅い領域で展開していることを検証することによって、神話の起源を現時点での日常生活にではなく、過去に遡って、年少期からの生育過程に求める必要性を確認した[ix]
もっとも最近では、2009年に取り組んだ2つの論文[x]において、上に述べた第二の経験領域、すなわち「『人種』や『黒人』という言葉・概念との遭遇とその習得」に関する日本人インフォーマントおよびアメリカ人インフォーマントそれぞれの経験を、アンケートと聞き取りの結果に基づいて掘り起こし、次の結論を得た。すなわち、「日本人インフォーマントの場合、幼い時期の経験を通じて、「人種」・「黒人」とは何か、その差異をどう理解し、どう対応すべきかについての情報を与えられた時点で、方向性や価値志向が決定されず、その後の教育経験やメディアからの情報に委ねられる可能性が高いが、アメリカ人インフォーマントの場合は、同じ時点で、一定以上の方向性を指定される可能性が高い」というものである。
本論は以上を踏まえて、分析の焦点を第三の経験領域である義務教育カリキュラムによる学習に絞り、その日本における展開を精査することを目的とする。この点については、すでに次の予告をおこなっている。
 
インフォーマントの多くは、「黒人」という言葉・概念を、中学校において、国語でも英語でもなく、まず社会科の地理的分野で「奴隷貿易で強制移送された人々」として、それから、学習年次が後になることが多いようであるが、歴史的分野で「リンカーンによる宣言によって奴隷から解放された人々」として学習した。インフォーマントには、教科書の語句解説や資料集のページを開き、「人種」が「白色人種、黒色人種、黄色人種」からなるとする記述を目にしたものも少なくなかった。指導要領に基づく中学校教育からは、「奴隷貿易の犠牲者として南北アメリカ大陸に連れ去られ、過酷な肉体労働を強いられ、やがて奴隷解放宣言によって救出される悲劇の主人公の子孫で、『白色人種』とも『黄色人種』とも異なる『人種』を構成する人々」としての群像が浮かび上がる[xi]
 
本論では、インフォーマントの回答・証言[xii]と、彼ら/彼女らが小学校・中学校における教育で実際に使用した教科書の構成や記述を俎上に載せ、具体的に検討をおこなうものとする[xiii]


[i]『読売新聞』2010年8月1日12版24面。
[ii]この記事に登場するスポーツスタイル社は、オーストラリアのジェネティックテクノロジーズ(GTG)社と提携し、日本でのスポーツ遺伝子検査のマーケティングを推進している。今後の動きを注視したい。
[iii]むろん、現在の短距離100Mとマラソンの王者を並べただけであり、上にいうような暗示を意図したつもりはないとの反論があることが予想される。なお、別に発表予定の拙稿でも、2009年夏のベルリン国際陸上大会時に活発に議論された本質主義に言及している。「この間、日本の私的・準公的な言説空間では、ジャマイカ勢の圧倒的優位を可能にする文化的、歴史的要因を究明しようとする一部の努力を圧倒するかたちで、「肌の『黒い』人=黒人」の強さや速さは生まれつきの要因によるものではないかという、本質主義的な憶測が飛び交った。」拙稿「日本社会における『黒人身体能力神話』の受容―『人種』/『黒人』という言葉・概念との遭遇とその習得を中心に―」京都大学人文科学研究所『人文学報』第100号(2011年出版予定)の冒頭部分を参照。今後、2012年のロンドン夏季五輪大会の際にも同様の言説空間が発生することが予想される。
[iv]本プロジェクトの遂行と同時に、学部生を対象とする授業「英語圏文化特講」では「『スポーツと人種』再考」と題して講義をおこない、運動能力の発達や獲得における歴史的、文化的要因の意義を多角的に考察した。卒業論文指導からは、「スポーツと人種」という主題に関連するものとして、「人種研究の対象としての2010年南アフリカW杯」、「黒人クォーターバックの出現とその背景」と題する2つを含む計4本もの成果を得た。大学という限られた組織内であるとはいえ、若い世代からの反響を歓迎したい。
[v]「神話」の歴史性を検証する作業では、特に1930年代にその起源を求める解釈が有力視されているが、こうした先行研究の成果を視野に入れつつ、さらに踏み込んだ分析が要請されている。なお、ここでいう第一の立場からの成果として次がある。拙稿「『黒人身体能力』と水泳、陸上競技、アメリカンスポーツ―『神話』の歴史性を検証するための試論的考察として―」『武蔵大学人文学会雑誌』第41巻第4号2010年。
[vi]ここで問われるべきは、「神話」の歴史性や時代的文脈におけるその性質であると同時に、否それ以上に、「量的」あるいは「比率的」に極端に肯定的な態度が強い展開のありかたである。たとえばアメリカでは、人種主義に対する警戒や統制ゆえに「神話」はタブーと化し、少なくとも公的な舞台で認知されることは皆無といってもよい。他方日本では、人種主義に対して比較的鈍感な文化的土壌も手伝って、「神話」が一方的に承認されることはあっても、批判的観点から俎上に載せられることは滅多にない。実際日本では、指導的立場にあるものでさえ、「神話」を前提として発言することが多い。陸上短距離種目のコーチングでは、「『黒人の天性』に対抗するには、日本人は『技能(スキル)』を磨く以外にない」と教えられると聞く。「黒人だから強い」という言説に潜む人種主義を指摘するだけで「褒めてなぜ悪い」、「事実だから仕方ない」といった反論を受けることも少なくない。
[vii]拙稿「『黒人身体能力神話』浸透度の文化的格差をさぐる」6-11頁参照。
[viii]同上、19-22頁参照。
[ix]拙稿「黒い肌の『異人種』との遭遇―『黒人身体能力神話』浸透度の文化的格差をさぐるための序論的考察として―」『武蔵大学総合研究所紀要』第18号2009年。
[x]拙稿「日本社会における『黒人身体能力神話』の受容」、および「『黒人身体能力』に対するアメリカ人の認否のダイナミクス―「人種」/「黒人」という言葉・概念との遭遇とその習得を中心に―」『武蔵大学総合研究所紀要』第19号2010年。
[xi]「日本社会における『黒人身体能力神話』の受容」、頁数は校正中のため未定。
[xii]一応「回答」はアンケートの記述、「証言」は聞き取り調査での発言と区別しておくが、実際には重複が多いため、厳密な区別は不可能である。調査の具体的な内容や方法については、「『黒人身体能力神話』浸透度の文化的格差をさぐる」に詳しいのでここでは繰り返さない。
[xiii]学習指導要領に基づいて、「初等」=小学校、「中等」=中学校・高等学校としておく。初等教育には幼稚園も含まれる。中等教育はさらに前期(中学校)、後期(高等学校)に分けられる。 

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