運動能力の人種間格差に関する言説・表象とその社会的影響を探るための序論的考察
日本スポーツ人類学界第9回大会
流通経済大学新松戸キャンパス
2008年3月30日(日)
運動能力の人種間格差に関する言説・表象と
その社会的影響を探るための序論的考察
武蔵大学
川島浩平
米国の1990年代は、黒人アスリートが、三大スポーツや陸上競技において圧倒的に優位な地位を築き上げた「黄金時代」といわれる。この時代には、運動能力の人種的格差に関する言説や表象がメディアを通じて社会に浸透し、多数の黒人青少年が、スポーツを成功のための唯一の道と信じ込み、他の進路に目もくれず、過度の情熱と努力を注ぎ込む一種の病理現象をもたらしたとの告発が相次いだ。しかしその後の10年間に国際スポーツ界の勢力地図は徐々に塗り替えられ、プロ、アマのスポーツ空間において黒人アスリートは往年の地位を失いつつある。スポーツ界におけるこのような変化の中で、人種間格差に関する言説や表象と、それがもたらした社会的影響のその後を追跡し、支配的ステレオタイプに抵抗する人々の努力と経験を掘り起こす作業が焦眉の急とされている。今回の発表では、こうした作業の手始めとして、近年のアメリカスポーツの動向を、黒人アスレティシズムを焦点として振り返りながら、「黄金時代」が終焉を迎えつつあるとされる根拠を検討し、このような動向のなかで、日米の学生にどのような意識差が生じているかを考察する。